原田兄の祭の版画展だという。
雄渾の祭りの音が聞こえてくるように思える。
音の元祖は、笛ではない。舞でもない。おそらく太鼓の音色だろう。
海の声が遠くから聞こえてくる。山の声が遠くから聞こえてくる。その潮の騒ぎと山の叫びが一体となったところに、原田版画の音が結ばれる。
祭は筋肉の活動だ。筋肉は束になり、そして汗を生む。汗が招くのは風だ。これらが、原田作品の底に脈搏つのだ。
波の音が、風の音が一束になって一枚の板に結束を破って集まってくる。
牛の角がぶつかり、男の生きざまの声が聞えてくる。
原田兄が祭に視線をやる。熱っぽい視線だろう。
その視線が指の神経に宿った時、刀は祭日の音を切り裂いていく。いや、切り拓いていくのだ。
原田兄の作品には、もともと音とか声とかがある。それは一本の線で描かれたり、数本の線で示されたりする。
この音を描く時の作者の顔が見たい。
---そんな祭りなのだ。
※出典 『イラストレーションの技法 版画』原田維夫著 有峰書店 1979年